東京高等裁判所 昭和27年(う)2365号 判決
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(判旨)
一、所論の昭和二十七年四月十八日附原審第一囘公判調書には、原審検察官が、該公判期日において起訴状を朗読した旨の記載の認められないこと所論の通りである。しかし、同年二月一日から施行されている刑事訴訟規則の一部を改正する規則第四十四条は、公判調書の簡易化のため、起訴状朗読のような公判手続における重要な事項であつても、一般的に当然行なわれているものと認められている事項は、公判調書の必要的記載事項としていないのであるから、原審第一囘公判調書に起訴状を朗読した旨の記載がなくとも、所論のように、現実に原審第一囘公判期日において起訴状の朗読がなかつたものということはできないのであつて、却つて、検察官の起訴状朗読は前記のように一般的に当然行なわれている事項であり、しかも原審第一囘公判調書には、検察官が起訴状の記載を訂正していることと、被告事件に対する被告人の陳述が明記されていることが認められるのであるから、原審検察官は右公判期日において起訴状を朗読したものと認めるを相当とするのである。しからば、原審公判手続は、所論のように起訴状の朗読なくして開始したものということができないから、原審の訴訟手続には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
二、改正後の刑訴規則第四四条は刑訴法第三二六条所定の同意があつたこと及び取り調べた証拠の標目竝びにその取調の順序を記載すべきことを定めているほか、裁判所が同規則第一九〇条第二項所定の意見を聽いたことや証拠調の方法を公判調書に記載すべきことを命じていないのみならず、記録に徴しても原審裁判官においてこのことを公判調書に記載すべき旨を命じた形跡はない。して見れば前記規則の改正施行後たる原審公判調書に前記事項の記載がないからといつて、これをもつて、右公判期日において、かかる手続が履踐されなかつたものと断定することはできない。(以下略)
三、いわゆる冐頭陳述というのは刑訴法第二九六条所定の証拠と証明すべき事実との関係を明らかにすることをいうものであつて、刑訴規則第四四条第一項第一一号によれば、証拠と証明すべき事実との関係は証拠の標目自体によつて明らかである場合は特に公判調書に記載することを要しない旨を規定しているのであるから、これまたその記載のなかつたことを以て直ちにいわゆる冐頭陳述がなされなかつたものとなすことはできない。そして同公判調書には検察官は別紙証拠調請求書(一)及び(二)のとおり証拠調請求をした旨記載せられ、別紙として同調書末尾に「検察官から証拠調請求の書面又は証人等の標目」(一)及び(二)が添附せられており、これによれば甲第一号証乃至第三号証については証拠と証明事実との関係は明示されてあり、甲第四号証乃至第八号証については証拠の標目自体によつて明らかである。したがつて前者については現実に冐頭陳述が行われたものであつて、これを公判調書に記載したものというべく、後者については証拠の標目自体に徴し証明すべき事実との関係は自ら明らかであるから特に改めてこれを説明するまでもなく、仮にこの点につきいわゆる冐頭陳述がなされなかつたとしても何ら被告人の権利保護に欠くるところがなく、もとより判決に影響を及ぼすところはない。
四、原審公判調書中に、刑訴法第二九一条第二項、刑訴規則第一九七条規定の手続をなした旨の記載のないのは、刑訴規則第四四条が、右事項の記載をもつて公判調書の記載事項としていない当然の結果であつて、その記載なきの故に該手続が全然なされなかつたということはできない。
五、改正刑訴規則第四四条によれば審判を公開したことは公判調書の必要的記載ではなくなつたのであるから所論公判調書にその旨の記載がないのはむしろ当然であり、その記載が存しないことの一事を以てこれらの手続が履踐されなかつたものと認めることはできない。むしろ逆にこれら当然行わるべき手続は特段の事情の認められない限り適法に行われたものと事実上推定すべきものであるところ、原審公判調書を精査するも原審において弁護人、被告人等から敍上の点について異議を申立てたと認むべき形跡は全く存せず、しかのみならず論旨は単に公判調書に審理を公開した旨指摘するにとどまり刑訴法第三七七条所定の保証書も添附せず又同法第三七九条所定の訴訟記録等に現われている事実の援用もしておらないから結局原審の訴訟手続は公開の法廷において行われたものと認むべきである。(中途省略あり)
六、原審公判調書を見ると、検察官の証拠調請求並びにこれに対する弁護人及び被告人の意見が記載されてある後に、「裁判官、証拠決定、採用、番号順に取調」と記載されており、論旨は右の「番号順に取調」というのを原裁判所が検察官の取調を請求した証拠を番号順に取り調べる旨の決定したという趣旨に解するのであるが、改正刑訴規則第四四条第一項によれば、公判調書には取り調べた証拠の標目及びその取調の順序はこれを記載することを要するが(同項第二二號)、証拠調の範囲、順序及び方法を定める決定は記載の必要がないことになつている(同項第三〇號ロ)のであつて、このことと同公判調書の他の記載部分とを対照して考えると、右の「番号順に取調」というのは所論のように裁判所の決定の内容を示したものではなく、裁判所が検察官の請求にかかる証拠を番号の順序に取り調べたということを記載したものと解するのが相当である。從つて証拠調を実施したことの記載がないという所論は採用し難く、又同規則によれば、証拠の取調をしたことは公判調書に記載されなければならないが、その取調がいかなる方法によつてなされたかということまで記載することは要求されていないのであるから、所論証拠書類の朗読がなされたことの記載がないからといつて違法であるということはできず、いわんやこれをもつて適法な証拠調の実施がなかつたということはできない。むしろその証拠調がなされたという記載がある以上は当然刑訴法の定めるところに從つて適法にその朗読がなされたものと認むべきである。(以下省略)
七、証拠の立証趣旨即ち証拠と証明すべき事実との関係は、証拠の標目自体によつて明瞭である場合にはこれを記載しなくてもよいことは改正規則第四四条第一一号に示すところである。今公判調書添付の証拠関係カードの証拠の標目を検討すれば、標目自体によつてその立証の趣旨は自から明瞭である。……とし公判調書に立証趣旨を記載しないことを是認している。
(説明)
最近刑訴規則第四四条の改正施行(二六・一一・二〇最高裁判所規則第一五號、二七・二・一より施行)に伴い同法条に関連して公判調書の記載と公判廷における手続の履踐に関する控訴趣意が多くなつた。勿論これは一時的現象であらうが、ここでは各事項につき最近の当庁判例の一つ宛を掲げることにした。
この改正は、公判調書の簡素化を企てておるのであつて、如何に重大な事項であつても通常どの訴訟においても行われる筈の手続等に記載を要しないこととした。そこで、從来は一切の訴訟手続を記載することが原則で、若しある手続についてそれをした旨の記載がなければ一応それが行われなかつたと推定される余地があつたが、改正後においてはこれが逆に当然行われる手続は記載がなくとも適法に行われたものと推定されることとなろう。現にここに掲げた多くの判例はこのことを示している。そこで今後は若し手続に瑕疵があつた場合は当事者において直ちに異議を申立てこれを公判調書に記載させておかなければ最早や控訴して争うことはむづかしくなるであろう。